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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)27号 判決 1985年3月14日

東京都杉並区南荻窪二丁目二番一七号

原告

宮下雄幸

右訴訟代理人弁護士

内谷銀之助

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被告

荻窪税務署長

仲岸英夫

右指定代理人

遠藤きみ

山田昭四郎

三浦道隆

和田千尋

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五三年三月九日付でした原告の昭和四九年分所得税についての更正のうち課税所得金額四八一万円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が原告に対し昭和五三年三月九日付でした原告の昭和五一年分所得税についての更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち、課税所得金額二〇二〇万七〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、その昭和四九年分所得税について、昭和五〇年三月一五日被告に対し別表一確定申告欄記載のとおり確定申告をし、更に、昭和五二年一月二六日同表修正申告欄記載のとおり修正申告をしたところ、被告は昭和五三年三月九日同表更正欄記載のとおり更正(以下「四九(以下「四九年分決定」という。)をした。原告は昭和五三年五月九日右更正及び決定に対し異議申立をしたところ、被告は昭和五三年八月七日右異議申立を棄却する決定をした。原告は更に同年九月八日審査請求をしたか、国税不服審判所長は昭和五四年一一月一五日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

2  原告は、その昭和五一年分(以下昭和四九年分とあわせ「本件係争各年分」という。)所得税について、昭和五二年三月一四日被告に対し別表二確定申告欄記載のとおり確定申告をし、更に、同年一〇月七日同表修正申告欄記載のとおり修正申告をしたところ、被告は昭和五三年三月九日同表更正欄記載のとおり更正(以下「五一年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「五一年分決定」という。)をした。原告は同年九月九日右更正及び決定に対して異議申立をしたところ、被告は同年八月七日同表異議決定欄記載のとおり原処分の一部を取り消す旨の異議決定をした。原告は更に同年九月八日審査請求をしたが、国税不服審判所長は昭和五四年一一月一五日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3  しかしながら、右各更正(ただし、昭和五一年分については異議決定により一部取り消された後のもの)のうち、昭和四九年分課税所得金額四八一万円を超える部分及び昭和五一年分課税所得金額二〇二〇万七〇〇〇円を超える部分は、原告の所得を過大に認定してした違法があり、したがって、過少申告加算税(ただし、昭和五一年分については異議決定により一部取り消された後のもの)の各賦課決定も違法であるから、その各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実を認め、同3の主張を争う。

三  被告の主張

1  被告が認定した原告の昭和四九年分各種所得の金額は、次のとおりである。

(一) 不動産所得金額 〇円

原告の申告額と同じである。

(二) 給与所得金額 二〇七万七五〇〇円

原告の申告額と同じである。

(三) 総所得金額 二〇七万七五〇〇円

右金額は右(一)と(二)の金額の合計額である。

(四) 分離短期譲渡所得金額 二六九六万二四三〇円

右金額は次の(1)から(2)及び(3)を控除したものである。

(1) 譲渡収入金額 九五八一万八三八二円

原告は、昭和四九年中に、別紙物件目録(一)ないし(三)及び(四)の(6)、(7)の不動産(以下これらをそれぞれ「土地(一)」、「物件(二)」、「物件(三)」、「土地(四)の(6)」、「土地(四)の(7)」という。)をそれぞれ別表三の「売却先」欄記載のとおり、千葉県ほか三名に譲渡した。その譲渡収入金額は、同表の「譲渡収入金額」欄記載のとおり、合計九五八一万八三八二円である。(なお、別紙物件目録(四)の土地(以下「土地(四)」という。)は、同目録(五)(以下「土地(五)」という。)の土地について昭和五二年七月二一日土地区画整理法一〇三条の規定に基づく換地処分がなされた後の土地であり、本件において対象とされる譲渡は、土地(四)の(6)、土地(四)の(7)を含め昭和四七年四月三日同法九八条の規定に基づいた仮換地の指定後、右換地処分前になされたものである。したがって、右譲渡時の土地を特定するためには、本件換地前の地番等を用いるべきものであるが、収入金額、取得費等の計算の便宜のため、換地処分後の地番等を表示した同目録(四)によることとする(以下、土地(四)及び(五)のうちの各土地の特定については同様の趣旨で、この方法によることとする。)。

(2) 取得費 六八八五万五九五二円

原告が昭和四九年中に譲渡した土地(一)、物件(二)及び(三)並びに土地(四)の(6)及び(7)の取得費は、別表三の「取得費」欄記載のとおり六八八五万五九五二円である。

土地(一)、物件(二)及び(三)の取得費は、原告の申告どおりであり、土地(四)の(6)及び(7)の取得費の算出根拠は次のとおりである。

すなわち、

(イ) 原告は、昭和四五年二月一〇日野中重男から土地(五)六六七・四〇平方メートルを四〇〇〇万円で取得した。

(ロ) その後、原告は、前記のとおり土地(五)につき、土地区画整理法に基づく換地処分を受けた。換地後の土地は、土地(四)であり、合計五二三・四八平方メートルであるところ、原告が昭和四九年中に他へ譲渡したのは、右土地のうち土地(四)の(6)及び(7)の合計四三・五八平方メートルであるから、右譲渡部分の取得費は、全体の取得費に右譲渡部分が占める割合を剰じて接分計算すると、次の算式のとおり、三三三万二二円となる。

(算式)

<省略>

(3) 譲渡費用 〇円

原告は、昭和四九年分の所得税確定申告において、分離短期譲渡所得に係る譲渡費用として株式会社内外工機(以下「内外工機」という。)に二三八七万六五三三円を支払ったとし、これを譲渡所得の計算上譲渡費用として控除しているが、仮に原告が右金額を支払ったとしても、右金額は、譲渡費用には当たらない。このことは、右金額が譲渡によって原告が得た利益の八割に相当する高額なものであることからも明らかであり、譲渡所得の計算上

2  被告が認定した原告の昭和五一年分各種所得の金額は、次のとおりである。

(一) 不動産所得金額 〇円

原告の申告額と同じである。

(二) 給与所得金額 二一一万八〇〇〇円

原告の申告額と同じである。

(三) 総所得金額 二一一万四六〇〇円

右金額は右( )と( )の金額の合計額である。

(四) 分離短期譲渡所得額 一億八五四万三六四五円

右金額は次の(1)から(2)及び(3)を控除したものである。

(1) 限度収入金額 一億二七四四万円

原告は、昭和五一年中に、別紙物件目録(四)の(1)及び(5)の各土地(以下これらをそれぞれ「土地(四)の(1)」及び「土地(四)の(5)」という。)を江波戸硝子株式会社に譲渡した。その譲渡収入金額は、別表三の「譲渡収入金額」欄記載のとおり、一億二七四四万円であり、原告の申告額と同じである。

(2) 取得費 一六三〇万九一五五円

(イ) 土地(五)は、前記1・(四)・(2)・(イ)のとおり、野中重男より四〇〇〇万円で取得したものであるが、その換地処分後の土地は、土地(四)であり、全体で五二三・四八平方メートルであるところ、原告が昭和五一年中に他へ譲渡したのは、土地(四)の(1)及び(5)の合計二一〇・六二平方メートルである。

したがって、右譲渡部分の土地の取得費は、全体の取得費に右譲渡部分が占める割合を乗じて按分計算すると、次の算式のとおり、一六〇九万三八三三円となる。

(算式)

<省略>

(ロ) 更に、原告は、別紙物件目録(五)の(1)の土地(以下「土地(五)の(1)」という。)について、土地区画整理法による換地処分に伴う清算金として、二八万五一九四円を課されることとなった。

ところで、土地(五)の(1)の換地として原告が取得したのは、土地(四)の(1)、土地(四)の(7)及び別紙物件目録(四)の(8)(以下「土地(四)の(8)」という。)の各土地合計一七九・三九平方メートルであるところ、昭和五一年中に他へ譲渡したのは、そのうち土地(四)の(1)の一三五・四四平方メートルであるから、右譲渡部分の取得費となる清算金の額は、清算金の総額に右譲渡部分が占める割合を乗じて按分計算すると、次の算式のとおり、二一万五三二二円となる。

(算式)

<省略>

(ハ) 以上の(イ)、(ロ)の合計額が土地(四)の(1)及び(5)の取得費となるものである。

(3) 譲渡費用 二五八万七二〇〇円

(イ) 原告は、土地(四)の(1)及び(5)を他へ譲渡するに際し、司法書士平野伊助に登記費用三万八四〇〇円及びマルタマ産業株式会社に仲介手数料二五四万八八〇〇円を支払っているので、右合計額二五八万七二〇〇円を譲渡費用とした。

(ロ) なお、原告は、昭和五一年分の所得税確定申告において、昭和四九年分と同様に、分離短期譲渡所得に係る譲渡費用として、内外工機に八四五八万九一九七円を支払ったとして、これを譲渡所得の計算上譲渡費用として控除しているが、仮に原告が右金額を支払ったとしても、右金額は、譲渡費用には当たらない。このことは、右金額が譲渡によって原告が得た利益の八割に相当する高額なものであることからも明らかであり、譲渡所得の計算上控除すべき費用とはならないものである。

3  本件更正処分の適法性について

原告の所得金額は、右1及び2のとおり、昭和四九年分は総所得金額二〇七万七五〇〇円、分離短期譲渡所得の金額二六九六万二四三〇円、昭和五一年分は総所得金額二一二万四六〇〇円、分離短期譲渡所得の金額一億八五四万三六四五円であるところ、本件各更正処分における所得金額(昭和五一年分については、異議決定により一部取消し後の金額)は、別表一、二のとおり、昭和四八年分は総所得金額二〇七万七五〇〇円、分離短期譲渡所得の金額二〇一四万六八五四円、昭和五一年分は総所得金額二一二万四六〇〇円、分離短期譲渡所得の金額八七八八万二九三八円であり、いずれも、本件主張額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

4  過少申告加算税賦課決定処分の適法性について

原告の昭和四九年分及び昭和五一年分の各更正処分が適法なことは以上のとおりであるが、原告は右各年分の所得税確定申告及び修正申告を過少に行っていたので、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件各更正処分により増加する部分として納付すべき税額(昭和五一年分については、異議決定により一部取消し後の税額)に一〇〇分の五を乗じて計算した過少申告加算税の賦課決定処分を行ったものであり、そこには、何ら違法な点はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち(一)ないし(三)の事実は認める。(四)のうち冒頭の金額は争うが、(1)の事実は認め、(2)のうち冒頭部分の別表三「取得費」欄のうち別紙物件目録(一)ないし(三)の各「取得費」欄記載の金額は認めるが、土地(四)の(6)及び(7)の取得費は争う。(イ)のうち取得金額が四〇〇〇万円であることは否認し、その余の事実は認める。(ロ)のうち土地(四)の(6)及び(7)の取得費が三三三万二二円であるとの点は争い、その余の事実は認める。(3)のうち、原告が昭和四九年分の所得税確定申告において、分離短期譲渡所得にかかる譲渡費用として、内外工機に二三八七万六五三三円を支払ったとして、これを譲渡費用として控除したことは認めるが、その余の主張は争う。

2  同2のうち(一)ないし(三)の事実は認める。(四)のうち冒頭の金額は争うが、(1)の事実は認め、(2)のうち冒頭の金額は争う。(イ)のうち取得金額が四〇〇〇万円であることは否認し、土地(四)の(1)及び(5)の取得費が一六〇九万三八三三円となることは争い、その余の事実は認める、(ロ)の事実は認める、(ハ)の主張は争う。(3)のうち冒頭の金額は争い、(イ)の事実は認める。(ロ)のうち原告が、昭和五一年分の所得税確定申告において、昭和四九年分と同様に、分離短期譲渡所得に係る譲渡費用として、内外工機に八四五八万九一九七円を支払ったとして、これを譲渡所得の計算上控除していることは認めるが、その余の主張は争う。

3  同3のうち、原告の総所得額は、昭和四九年分は二〇七万七五〇〇円、昭和五一年分は二一二万四六〇〇円であること、本件各更正処分における所得金額(昭和五一年分については異議決定により一部取り消し後の金額)は、別表一、二記載のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

五  原告の反論

1  原告が、昭和四九年中に譲渡した土地(四)の(6)及び(7)の取得費は次のとおり二二一万五三五六円である。

(一) 原告が、野中重男から土地(四)を購入するに際して同人に支払った対価 六三九八万六一〇〇円

(内訳)

(1) 原告が野中に対し提供した別紙物件目録(六)の土地(以下「土地(六)」という。)と、土地(四)との差額として同人に支払った交換差金二〇〇〇万円

(2) 野中に提供した土地(六)の取得費二〇〇〇万円

(3) 野中に提供した別紙物件目録(七)の土地、建物(以下物件(七)」という。)の取得費(購入代金、登記費用、不動産取得税)一三九八万六一〇〇円

(4) 野中に支払った石川鶴松に対する和解金負担分一〇〇〇万円

(二) 弁護士高木義明に支払った別表四(1)、(2)の事件の弁護士報酬 二〇〇万円

(三) 土地(四)のうちには借地権の負担を承継した部分と更地の部分とがあるので、借地権が設定されている部分は底地価格で購入し、借地権等の負担のない部分は更地価格で購入したとして取得価格を算定するのが相当である。

そして、別表五のとおり、土地(四)のうち、借地権負担部分は一八九・五三平方メートル、更地部分は三三三・九五平方メートルとなるところ、川越市の土地の場合、借地権割合七〇パーセント、底地割合三〇パーセントとするのが相当であるので、土地(四)の取得に要した費用である右(一)、(二)の合計六五九八万六一〇〇円のうち借地権負担部分一八九・五三平方メートルの共通取得費は、次式(1)のとおり九六〇万三五一円となり、また、更地部分三三三・九五平方メートルの共通取得費は、次式(2)のとおり五六三八万四七四九円となる。

(算式)

(1) <省略>

(2) 65.986.100(円)-9,600,351(円)=56,385,749(円)

(四) 原告が昭和四九年二月二〇日に売却した土地(四)の(6)及び(7)は、借地権負担部分の一部四三・五八平方メートルであるから、その取得の費用は、次式のとおり二二〇万七四七七円となる。

(算式)

<省略>

(五) 原告は、土地(四)を取得するに際し、昭和四五年二月二三日司法書士増田栄三に土地所有権移転登記申請費用として九万四六五〇円を支払った。

原告は、昭和四九年中に土地(四)の(6)及び(7)合計四三・五八平方メートルを譲渡したのであるから、これに対応する金額は、次式のとおり七八七九円となる。

(算式)

<省略>

(六) 以上のとおり、土地(四)の(6)及び(7)の取得費は、右(四)、(五)の合計額二二一万五三五六円となる。

2  原告が昭和五一年中に譲渡した土地(四)の(1)及び(5)は非業務用資産であるところ、その取得費は、次のとおり五四〇〇万七八八円である。

(一) 原告が野中から土地(四)を購入するに際して同人に支払った対価は、右1(一)のとおり六三九八万六一〇〇円であり、これに右1(二)の弁護士報酬二〇〇万を加えた合計額は六五九八万六一〇〇円となるところ、このうち更地部分三三三・九五平方メートルの共通取得費用は、右1(三)のとおり五六三八万五七四九円となる。

(二) 弁護士高木義明に支払った別表(四)(3)の事件の弁護士報酬 一〇〇万円

(三) 借入金利息 二七九四万七四六八円

原告は、土地(四)の取得契約日である昭和四四年一二月二九日に武蔵野信用金庫から右土地の購入資金として四五〇〇万円を借り入れたが、利息等の支払ができなかったため、昭和四八年、更に五五〇〇万円を借り入れた。右信用金庫に対する借入利息は、別表六のとおり昭和五一年一一月二〇日現在で三二七〇万五八六一円であり、このうち更地部分三三三・九五平方メートルに対応する利息額は、次式のとおり二七九四万七四六八円となる。

(算式)

<省略>

(四) 所有権移転登記費用 一七万九九三八円

土地(四)の固定資産税評価額は、昭和四五年当時五六五万二八七五円であったので登録免許税は次式のとおりとなる。

(算式)

<省略>

(五) 不動産取得税 一〇万八一六九円

(算式)

<省略>

(六) 右(一)ないし(五)の合計額は八五六二万一三二四円となるところ、原告が昭和五一年中に売却した土地(四)の(1)及び(5)は更地部分の一部二一〇・六二平方メートルであるから、その取得費は次式のとおり五四〇〇万七八八円となる。

(算式)

<省略>

3  譲渡費用について

(一) 原告は、昭和四八年四月一日内外工機との間で次のとおり契約をした。

(1) 内外工機は、原告所有不動産の維持管理一切を行う。

(2) 右不動産を売却処分した場合には、原告は、内外工機に対し売買純利益の八〇パーセントに相当する手数料を支払う。

(二) 原告は、右契約に基づき内外工機に次のとおり手数料を支払った。

(1) 昭和四九年中の譲渡分に対し二三七三万三九七〇円

(2) 昭和五一年中の譲渡分に対し八四五八万九一九七円

(三) 原告は、病身のため社会的活動ができなくなったので、不動産の譲渡も一切内外工機にゆだねたのであるから、譲渡費用に該当する。

(四) なお、昭和五一年分譲渡費用としては、この他に被告の主張する右三2(四)(3)(イ)の二五八万七二〇〇円と、これに加え、不動産売買契約書作成の際、収入印紙代として二万円を要している。

六  原告の反論に対する被告の認否及び主張

1  原告の反論1のうち(一)の冒頭の金額は争う。(1)、(2)の事実は認めるが、(3)の事実は否認する。すなわち、原告は、物件(七)を佐藤富子から買い受け、これを有波豊太郎に売り渡したものであり(ただし、登記簿上の買主は、有波豊太郎ではなく有波富夫及び有波有限会社とされている。)、野中重男はこれに関与していない。したがって、右土地建物の取得費を川越市の土地の取得費に算入することはできない。(4)の事実は否認する。石川鶴松が原告主張に係る和解金を受領した事実はないのであるから、これを前提とする原告から野中重男への和解金負担分の支払もあり得ない。(二)の事実は否認する。右金員は、原告が支出したのではなく、内外工機株式会社が自社の弁護士報酬として高木義明に支払ったものであり、同社の支出としてその損金に算入されているのであるから、原告の右主張は明らかに失当である。(三)のうち、土地(四)の中に借地権の負担を承継した部分があるとの事実は知らない。その余の主張は争う。(四)ないし(六)の主張は争う。

2  同2のうち(一)の主張は争う。(二)、(三)の事実は否認する。(四)のうち登録免許税率が一〇〇〇分の五〇であることは認めるが、その余の事実は知らない。(五)のうち不動産取得税率が一〇〇分の三であることは認めるが、その余の事実は知らない。(六)の主張は争う。

3  同3のうち(一)ないし(三)の事実は否認する。(四)の事実は争う。

4  原告は、川越市の土地の取得費を計算するに当たっては、借地権が設定されている土地とそうでない土地を分けて考えるべきであるとし、借地権が設定されている土地についての借地権価格と底地価格の割合は、七対三として取得費を算出すべきであると主張する。

しかしながら、一般に、借地権が設定されている土地とそうでない土地を一括して取得した場合に、その取得費を計算するに当たって、借地権価格割合を反映させる必要があることは被告も争わないが、その按分割合は、個々の事案ごとに諸般の事情を考慮して決定されるべきであり、原告主張のようにこれを一律に七対三として計算するのは失当というべきである。

特に、本件の場合は、川越市の土地のうち昭和四九年に譲渡された、借地権が設定されているとされる土地(四)の(6)及び(7)の譲渡価格の単価と昭和五一年に譲渡された、借地権が設定されていないとされる土地(四)の(1)及び(5)の譲渡価格の単価は、ほぼ同一の価格となっており、このことからすれば、そもそも昭和四九年に譲渡された土地に真実借地権が設定されていたか否かも疑わしく、仮に設定されていたとしても、その譲渡価格の単価が更地のそれとほぼ同一であることに照らせば、これに対応する取得費も更地とみなして計算すべきであり、原告の前記主張は失当である。

仮に、原告が主張するように、原告が土地(五)を取得した当時、その一部に借地権が存したとしても、以下のとおり、土地(四)の(6)及び(7)の土地の取得費の算定に際して、右借地権の有無を考慮する必要はないというべきである。

土地(五)の一帯は、川越駅西口前に位置し、原告の取得前から、土地区画整理事業等の利権がからんで、細く分筆されながらひん繁に譲渡が繰り返され、原告が右各土地を取得した昭和五四年当時は、まさに土地区画整理事業の施行の最中で、現地で個々の土地を特定することさえ難しい状況であった。そして、<1>仮換地の指定の際、借地権者として認められた小山吉平ほか二名が土地区画整理事業の施行者であった川越市長に提出した土地区画整理法八五条に基づく借地権申告書の土地所有者欄には原告の署名及び押印がないこと、<2>原告が借地権が存したと主張している土地と借地権が存しなかったと主張している土地の各譲渡価格の一平方メートル当たりの単価はほぼ同じであること、<3>本件譲渡所得の申告に際し、原告自らが借地権についての考慮をしない単純な面積比による按分計算によって取得費の算定をしていたこと、以上の各事実に照らせば、原告は、右各土地の取得時点では、その一部に借地権が存するなどということは全く考えておらず、原告が本訴において借地権が存したと主張している土地も、借地権の存しない土地も同様の価格のものとしてその取引をしたと認められるのである。そうである以上、土地(四)の(6)及び(7)の取得費の算定に際して、借地権の有無を考慮する必要はなく、被告の面積比による按分計算の方法は合理的というべきである。

5  原告は、武蔵野信用金庫に支払った借入金利息二七八九万九〇一円が川越市の土地の取得費に当たると主張する。

しかしながら、原告が借入金利子について、その算定の基礎としている昭和四四年一二月二九日付けの武蔵野信用金庫からの借入金四五〇〇万円は、同信用金庫の借入申込書・貸付異議書及び不動産調査書によれば、東京都新宿区東大久保二丁目八七番及び同所八三番の三所在の原告所有に係る賃貸マンションの建築資金に使用されたものと認められ、川越市の土地の取得には何の関係もないことは明らかである。また、昭和四八年八月二五日付けで借入れたとする一億円は、借り換えによるもので、そのうち、原告が川越市の土地取得費用に対応すると主張する五〇〇〇万円は、右四五〇〇万円の借入金をその利息の一部を含めて借り換えたものと考えられるから、右五〇〇〇万円の支払利息についても川越市の土地の取得と関係ないことが明らかであり、原告の主張は失当である。

6  原告は、内外工機に対して、各物件の譲渡により得た利益のうち、昭和四九年分として二三七三万三九七〇円、昭和五一年分として八四五八万九一九七円を各物件の管理委託費の名目で支払ったとした上、右金額を、原告の右各年分の譲渡所得の計算上、譲渡費用として認めるべきであると主張している。

しかしながら、一般に、管理委託の対象となるのは、アパートやマンション等の保存・管理・家賃の徴収等であるところ、そもそも、本件のように特に管理委託を必要とするような特段の事情も存しない更地について右のような多額の金銭を支払って、原告が第三者に対し管理委託をしたなどということは全く信じ難いことである。

しかも、原告主張の管理委託契約書が作成されたのは、内外工機の業績が悪化していた時期であり、右契約は、原告が本件譲渡代金の一部を自己が代表者となっている内外工機の運転資金に充てることを企図して計画的に行ったものとしか考えようのないものである。

仮に、原告主張のとおり、原告が内外工機に対し管理委託費という名目で右金銭を支払ったとの事実が認められるとしても、そもそも管理委託費というものは、資産の保留期間中の維持管理費であって、譲渡のために直接支出する費用ではないのであるから、譲渡所得の計算上控除すべき譲渡費用には当たらないものである。

第三証拠

当事者双方の証拠の選出、認否及び援用は本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  本件係争各年分の所得のうち分離短期譲渡所得を除くその余の分について

本件係争各年分の所得のうち分離短期譲渡所得を除くその余の存在については、当事者間に争いがない。

二  昭和四九年分の分離短期譲渡所得について

1  (譲渡収入金額について)

原告が昭和四九年中に土地(一)、物件(二)及び(三)並びに土地(四)の(6)及び(7)を別表三の「売却先」欄記載のとおり譲渡したこと(なお、土地(四)は、土地(五)について昭和四七年四月三一日土地区画整理法九八条の規定に基づいた仮換地の指定がされ、次に昭和五二年七月二一日同法一〇三条の規定に基づく換地処分がされた後の土地であることは当事者間に争いがないので、土地(四)の(6)及び(7)は、正確には、地番の表示として同地(五)のうち換地後の土地(四)の(6)及び(7)に該当する部分とすべきであるが、計算の便宜上、換地後の土地(四)として表示し、かつ、地積を算出することとする。以下同じ。)、その譲渡収入金額が同表の「譲渡収入金額」欄記載のとおり九五七一万八三八二円であることは、当事者間に争いがない。

2  (取得費について)

原告が昭和四九年中に譲渡した土地(一)並びに物件(二)及び(三)の取得費は別表三の物件目録(一)(1)、(二)(1)及び(2)並びに(三)(1)及び(2)の各「取得費」欄記載の金額であることは、当事者間に争いがなく、右合計額が六五五万五九三〇円であることは計数上明らかであるので、以下、土地(四)の(6)及び(7)の取得費の額について判断する。

(一)  原告が昭和四五年二月一〇日野中重男から土地(五)を買い受けたこと、その際原告は右野中に対して土地(六)を提供しかつ土地(五)との差額として二〇〇〇万円を支払ったこと及び同人に提供した土地(六)の取得費は二〇〇〇万円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、土地(五)を野中から取得するに際し、右記のほか、同人に対して物件(七)を提供し、石川鶴松に対する和解金負担分として一〇〇〇万円を支払ったほか、更に、弁護士高木義明に対して弁護士報酬として二〇〇万円を支払ったので、これらも土地(五)の取得費に算入すべきである旨を主張するので、この点について判断するに、まず、野中に物件(七)の(1)、(2)を提供したとの点については、原告はその作成にかかる昭和五二年一二月一五日付被告に対する上申書(乙第一六号証)においても同様の主張をしているところ、この点に関し、原告本人尋問の結果中における供述内容は、原告が土地(五)の売買代金名下に同土地に関する紛争の解決金として野中に対して一五〇〇万円を支払ったことはあるが、物件(七)については、これを取得したことさえもないというのであって、右事実を裏付けるものではなく、他に右事実を裏付けるに足る証拠はないのみならず、かえって、成立に争いのない甲第二八、第二九号証、乙第九ないし第一一号証(乙第九、第一〇号証は原本の存在も争いがない。)及び原告本人尋問の結界により成立の認められる甲第三〇号証によると、原告は、昭和四五年二月ころ健全不動産の仲介により佐藤富子から物件(七)を購入し、小柳進名義で昭和四五年四月一日に同年三月三一日付売買を原因とする所有権移転登記手続を経由したこと並びに原告は同年七月二二日有波豊太郎に右物件を売却し、同人は佐藤富夫及び有波有限会社名義で同年七月三一日に同日付売買を原因とする所有権移転登記手続を経由したことが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前記上申書ともども措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、原告が野中に物件(七)を提供したことは到底これを認めることができず、原告の右主張は理由がないといわなければならない。

(三)  次に、原告が野中に対して石川鶴松との間の和解の和解金負担分として一〇〇〇万円を支払ったとの点については、原告は前記上申書(乙第一六号証)においても同様の主張をしているところ、この点に関し、原告の本人尋問の結果中における供述内容は、土地(五)について、かって、その所有権ないし共有権を有していた塚本陽一と同様の権利を有していた石川鶴松との間で、その権利の帰属をめぐって何らかの紛争が生じ、右紛争に何らかの紛争が生じ、右紛争に何らかの関係で野中も関与していたが、右紛争は昭和四五年二月以前に何人かの間で和解により解決したので、その際、原告は野中に右解決金として一〇〇〇万円を支払ったというものであって、その供述内容は、右和解の当事者が誰であるのか、その具体的内容はどうなのか、何故原告が右の金員を支払うこととなったのか等の主要な諸点が明らかでなく極めてあいまいであって、右上申書ともども到底信を措き難いものといわざるを得ず、他に原告の右主張を認めるに足る証拠はない。

なお、原告は、右和解金を野中に土地(五)の中間代金の趣旨で支払ったとも供述しているので、この点について検討するに、前掲乙第一〇号証及び原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一四ないし第一七号証によると、原告は、土地(五)の土地(六)との差額金二〇〇〇万円(同差額金が二〇〇〇万円であることは、前記のとおり当事者間に争いのないところである。)を野中に対して、昭和四四年一二月二九日に五〇〇万円、昭和四五年一月三〇日に三五〇万円、同年二月一日ころに一五〇万円及び同月二〇日ころに一〇〇〇万円に分離して支払い、これと別に、野中が塚本に渡す金として五〇〇万円を貸し付け、これらの合計金額二五〇〇万円について、野中は同月一〇日付で原告に対し領収証を交付したことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、原告が野中に対して右の和解金相当の金額を右に認定の土地差額金二〇〇〇万円及び貸付金五〇〇万円のほかに昭和四五年二月以前に中間代金として支払ったとは到底認めることができず、原告の右主張も理由がないというべきである。

(四)  更に、原告が弁護士高木義明に弁護士報酬として二〇〇万円を支払ったとの点については、原告は前記上申書(乙第一六号証)においても同様の主張(ただし、金額は三〇〇万円である。)をしているが、他にこれを認めるべき証拠はなく、かえって、原本の存在及び成立に争いのない乙第一二号証及び原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第四三号証によると、昭和五〇年五月一二日に弁護士高木義明に対し手数料として三〇〇万円を支払ったのは原告でなく内外工機であり、同社は、同月二四日右三〇〇万円の支払を雑費勘定に計上し、同社の損金として処理したことが認められる。証人望月美津江の証言中右認定に反する部分は、それ自体あいまいであって、措信することができず、また、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、何故に原告が自己の紛争に関して弁護士に委任した報酬を内外工機の名義で支払わなければならなかったかについて首肯しうる事情が認められず、これを措信することができない。

そうすると、原告が右弁護士費用を支払ったことを前提とする原告の右主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

(五)  次に、原告は、土地(四)のうちには借地権の負担を承継した部分と更地の部分があるので、借地権が設定されている部分は底地権価格で購入し、借地権の負担のない部分は更地価格で購入したとして、取得価格を算定すべきであると主張する。

原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証、第一二号証、成立につき争いがなく原本の存在につき弁論の全趣旨によりこれを認められる乙第八号証の一ないし三、当裁判所の調査嘱託の結果及び原告本人尋問の結果によると、川越都市計画川越駅西口土地区画整理事業施行の際、土地(五)のうち、小山吉平は別紙物件目録(五)の(4)の土地の一部につき、杉浦貞蔵は同目録(五)の(5)の土地につき、前田他四郎は同目録(五)の(1)の土地の一部につき、それぞれ施行者である川越市に対して借地権の申告をし、川越市はこれに基づいて、昭和四七年四月三日仮換地の指定をした際、仮換地後の土地である土地(四)のうち、土地(四)の(3)を小山吉平の、土地(四)の(6)及び(7)を杉浦貞蔵の、土地(四)の(8)を前田他四郎の各賃借地としてそれぞれ指定したこと(なお、成立に争いのない甲第一ないし第八号証によると、土地(五)について、昭和五二年八月三日付で換地処分がなされた後の換地は、これに対応する仮換地との間に地積の点で若干の異同があることが認められるが、換地処分後の地積で表示することとする。)、昭和四四年末ころ、原告が現地を調査した時点においては、小山吉平は木造平家建家屋を所有し、杉浦貞蔵は一〇坪くらいの建物を所有し、前田他四郎はフジヤ時計店という建物を所有していたこと、また、野中は、原告に土地(四)を譲渡する際、小山吉平を立ち退かせる旨を約したが、原告が取得した時点で、立ち退きはされていなかったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、原告が野中から土地(四)を取得した際、土地(四)の(3)につき小山吉平の、土地(四)の(6)及び(7)につき杉浦貞蔵の、土地(四)の(8)につき前田他四郎の各借地権の負担を承継したものといわざるを得ない。証人佐々木三郎の証言のうち、原告を税務調査した際、原告は借地権の存することについて述べていなかったとの部分、現場調査を行った時点では土地区画整理事業中で、現地の確認ができなかったとの部分、前掲乙第八号証の一ないし三の各借地人の借地人の借地権申告書に土地所有者である原告の署名押印がなされていなかったとの部分も、右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。なお、原告が借地権が存したと主張している土地と借地権が存しなかったと主張している土地の各譲渡価格の一平方メートル当たりの単価はほぼ同じであるとの被告の指摘も、仮にそうであるとしても、原告が本件土地を取得した時点において、借地権の負担を承継した部分が存するか否かの判断に直接影響を与えるものということはできない。

次に、前掲甲第一二号証及び調査嘱託の結果によれば、土地(四)は川越駅西口駅前に位置する商業地域であることが明らかであり、経験則上、右のような商業地域であれば、一般に、借地権割合は七割程度には達するものと考えられるから、この点に関する原告の主張は相当であるということができる。

以上の事実によれば、土地(四)のうち借地権負担部分(別紙物件目録(四)の(3)、(6)及び(8))は一八九・五三平方メートル、借地権負担のない更地部分(同目録(四)の(1)、(2)、(4)及び(5))は三三三・九五平方メートルであり、右借地権割合を七割、底地権割合を三割とすると、右取得費四〇〇〇万円のうち、借地権負担部分一八九・五三平方メートルの共通取得費は次式(イ)のとおり五八一万九六二〇円となり、更地部分三三三・九五平方メートルの共通取得費は次式(ロ)のとおり三四一八万三八〇円となることが認められる。

(算式)

(イ) <省略>

(ロ) 40,000,000(円)-5,819,620(円)=34,180,380(円)

(六)  ところで、原告が昭和四九年中に売却した土地(四)の(6)及び(7)は借地権負担部分の一部四三・五八平方メートルであるから、その取得に要した費用は一三三万八一四七円となることは、計算上明らかである。

(七)  更に、原告は、土地(四)を取得するに際して昭和四五年二月二三日司法書士増田栄三に土地所有権移転登記申請費用として九万四六五〇円を支払ったと主張する。弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二五号証によると、原告は昭和四五年二月二三日司法書士増田栄三に対して所有権移転登記申請費用等として一三万八三五〇円を支払ったこと(内訳は、手数料二七〇〇円、登録免許税額一三万五二一〇円、印紙代五〇〇円である。)が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、少なくとも、原告主張の九万四六五〇円は、登録免許税額を含め、本件移転登記申請費用として認めるのが相当である(なお、土地(四)全体の昭和四五年当時の固定資産税評価額は五六五万二〇〇〇円であることは後記三2(五)のとおりであって、このことからすると、所有権移転登記登録免許税額は二八万二六〇〇円となるはずであるが、原告主張の金額はその範囲内にあるものとして認められることとなる。)。

そして、原告が昭和四九年中に土地(四)の(6)及び(7)の合計四三・五八平方メートルを譲渡したことは、前記のとおりであるから、これに対応する金額は次式のとおり七八七九円となる。

(算式)

<省略>

(八)  以上のとおりで、土地(四)の(6)及び(7)の取得費は、結局、右(六)、(七)の合計一三四万六〇二六円となる。

3  (譲渡費用について)

原告は、内外工機との間の契約に基づいて同社に支払った二三七三万三九七〇円は譲渡費用に当たると主張する。

原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第五四号証、証人望月美津枝の証言により成立の認められる甲第五五号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和四八年四月一日付で、原告の所有する土地(一)等の不動産の維持管理の一切を内外工機に委託すること、原告が右不動産を第三者に売却する時は、売買に関する最低価格を内外工機に示し、相手方との交渉及び売買契約調印に至るまでの権限を委託することができ、この場合、原告は内外工機に対し売買純益の八〇パーセント相当額を手数料として支払うものとすること、本契約期間中に本件物件に関して生ずる一切の法律行為については内外工機の責任においてこれを解決しなければならないことなどの条項を定めた契約書を作成したことが認められる。

しかしながら、譲渡資産の維持又は管理に要した費用は譲渡に要した費用といえないものであるところ、右契約書にいう手数料が管理を委託したことについての対価とすれば、これをもって譲渡費用とすることはできない。また、右契約は、原告個人が、その代表取締役となっている会社との間で締結したものであり、原告本人尋問の結果及び証人望月美津枝の証言によれば、右会社は、いわば原告の個人会社であって、その経営は原告の意のまゝにされてきたことが認められること、本件全証拠によるも、昭和四九年中に譲渡した前記各不動産の譲渡の際に、右契約に基づいて内外工機が具体的にいかなる態様の仲介等の譲渡に関する行為をしたのかが明らかでないこと及び右手数料が、売買純益の八〇パーセントという極めて多額なものとなっている証拠についても、原告本人は、川越の土地に関してはいちおう内外工機の利権の土地であるという認識からこのような契約をしたとか、実体は内外工機のものだとか述べるが、購入資金を内外工機が支出しているわけではない(原告自身そのような主張をしてはいない)以上、このような供述はそれ自体不合理で、理解し難いものというべきであることなどからすれば、仮に右契約に基づいて原告が内外工機に何らかの支払をなしたことがあるとしても、これをもって原告主張のような譲渡費用と認めることはできないものといわざるを得ない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の右主張は理由がないというべきである。

4  (昭和四九年分更正、決定の適法性について)

以上によれば、昭和四九年分の分離短期譲渡所得金額は、右1の譲渡収入金額九五八一万八三八二円から、右2の取得費合計六六八七万一九五六円を控除した二八九四万六四二六円となるところ、昭和四九年分更正における分離短期譲渡所得の認定額が二〇一四万六八五四円であることは、当事者間に争いがないので、右更正に原告の所得を過大に認定した違法はないというべきであり、したがって、右更正を前提としてされた四九年分決定にも何ら違法はないといわなければならない。

三  昭和五一年分の分離短期譲渡所得について

1  (譲渡収入金額について)

原告が昭和五一年中に土地(四)の(1)及び(5)を江波戸硝子株式会社に譲渡したこと及びその譲渡収入金額は別表三の「譲渡収入金額」欄記載のとおり一億二七四四万円であることは、当事者間に争いがない。

2  (取得費について)

(一)  原告は、昭和四五年二月一〇日に野中から土地(五)を取得した際、同人に対し土地(六)を提供し、かつ、土地(五)との差額として二〇〇〇万円を支払ったこと、同人に提供した土地(六)の取得費は二〇〇〇万円であることは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、原告の主張する、このほかに、原告が野中に対して物件(七)の(1)及び(2)を提供し、また石川鶴松に対する和解金負担分として一〇〇〇万円を支払った事実及び原告が弁護士高木義明に弁護士報酬として二〇〇万円を支払った事実は、前記のとおり、いずれもこれを認めることができない。

次に、土地(四)のうち土地(四)の(3)、(6)、(7)及び(8)の地積合計一八九・五三平方メートルには借地権の負担があり、土地(四)の(1)、(2)、(4)及び(5)の地積合計三三三・九五平方メートルは借地権負担のない更地として取得したこと、右借地権の割合を七割、底地権割合を三割とみるのが相当であること、これにより算出すると、更地部分三三三・九五平方メートルの共通取得費が三四一八万三八〇円となることは、前示のとおりである。

右の事実によれば、土地(四)の(1)及び(5)は借地権のない更地部分三三三・九五平方メートルのうち二一〇・六二平方メートルであるので、これに対応する共通取得費の額は二一五五万七三三一円となる。

(二)  原告は、土地(五)の(1)について、土地区画整理法による換地処分に伴う清算金として二八万五一九四円が課されることとなったこと、原告は土地(五)の(1)の換地として土地(四)の(1)、(7)及び(8)の地積合計一七九・三九平方メートルを取得したところ、昭和五一年中に他へ譲渡したのは、そのうち土地(四)の(1)の一三五・四四平方メートルであるから、右譲渡部分の取得費となる清算金の額は次式のとおり二一万五三二二円となることは、当事者間に争いがない。

(算式)

<省略>

(三)  次に、原告は、弁護士高木義明に別表(四)(3)の事件の弁護士報酬として一〇〇万円を支払ったと主張するが、これを認めるべき証拠はなく、かえって、昭和五〇年五月一二日弁護士高木義明に手数料として三〇〇万円を支払ったのは原告ではなく内外工機であって、同社は同月二四日右三〇〇万円の支出を雑費勘定に計上し、同社の損金として処理したことが認められることは、前示のとおりであるから、原告の右主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないこととなる。

(四)  更に、原告は、武蔵野信用金庫に支払った借入金利息三二七〇万五八六一円のうち二七九四万七四六八円が右土地に対応するものであると主張する。

成立に争いのない甲第四六号証、第四九号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第四四、第四五号証、第四七、第四八号証、第五〇ないし第五四号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和四四年三月二九日武蔵野信用金庫から一四〇〇万円を昭和五〇年二月二〇日までの分割払いの約定で借り受け、次いで、昭和四四年一二月二九日四五〇〇万円を年利九・五パーセント、元金反済期日昭和五〇年一月三一日の約定で借り受け、更に、昭和四八年八月二四日従前の借入金の残元本や利息を新たに借り換えるとともに新規の借入れを行い、結局一億円を借り入れたこと、右一億円の借入れは昭和五二年四月六日完済されたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして、原告は、その本人尋問において、右借入金額はそのうち二、三〇〇万円を除いてすべて土地(四)の取得に関するものであると供述している。また、原告が右四五〇〇万円を借り入れた昭和四四年一二月二九日に、原告は野中に対し右土地の売買代金の一部として五〇〇万円を支払い、昭和四五年一月三〇日に三五〇万円、同年二月一日ころに一五〇万円、同月二〇日ころに一〇〇〇万円を支払ったことが認められることは、前記二2(三)のとおりである。

しかしながら、まず、昭和四四年三月二九日にされた一四〇〇万円の借入れについてみるに、前掲乙第一〇号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、かねてより健全不動産こと浜野守正と面識があったところ、昭和四四年六、七月ころ右浜野から川越市に適当な土地があるとの話があり、同年一一月末から一二月中旬までの間に浜野を介して野中と知り合い、売買代金額について野中と交渉の末、同年一二月二六、七日に口頭で売買契約をしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右の事実によれば、昭和四四年三月二九日の一四〇〇万円の借り入れが土地(五)の取得のためになされたとする原告の右供述は、右時効にはまだ右土地の存在さえ原告は知らなかったはずであるから、到底措信することができず、他に、右一四〇〇万円の借り入れが右土地の取得のためになされたことを認めるに足る証拠はない。

次に、昭和四四年一二月二九日の四五〇〇万円の借り入れについては、成立に争いのない乙第一四号証並びに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる乙第一三号証の一ないし五によると、原告は、昭和四四年一一月二五日武蔵野信用金庫に右四五〇〇万円の借入れ申込みをした際、右借入金の使途は賃貸用マンション建築資金であると申請し、右信用金庫は、原告の右申請に基づいて右マンション建築工事の進行状況、従前の建築資金の状況等の他、返済資金は右マンション完成後、資料収入等から充当され得ることをも検討したうえ、原告に右四五〇〇万円を貸し付けることにしたこと、右マンションは昭和四五年一月二九日に完成し、同年五月二五日にその保存登記がなされたことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると、右借り入れが土地(四)の取得のためになされたものとは到底認めることができない。

更に、昭和四八年八月二四日の一億円の借り入れについても、本件全証拠によるも、右借り入れが特に本件土地の取得を目的としてされた のであるとの事情を認めることはできないから、結局、原告が武蔵野信用金庫に支払ったその主張の借入金利息を本件土地の取得費に該当すると認めることはできないというべきである。

(五)  次に、原告主張の所有権移転登記費用については、前掲甲第一ないし第八号証並びに原本の存在及び成立に争いのない甲第二七号証によると、土地(四)について昭和四五年二月二四日付で原告のために所有権移転登記がなされたこと、また、右登記時の右不動産の固定資産税評価額は五六五万二〇〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、土地(四)全体の五二三・四八平方メートルのうち土地(四)の(1)及び(5)合計二一〇・六二平方メートルに対応する登録免許税額は、次式のとおり一一万三七〇二円となる。

(算式)

<省略>

(六)  更に、原告主張の不動産取得税については、前掲甲第二七号証によれば、原告は土地(四)について不動産取得税を昭和四五年度に納付したこと及び右不動産の課税標準額は五六五万二〇〇〇円であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、土地(四)全体の合計五二三・四八平方メートルのうち土地(四)の(1)及び(5)の二一〇・六二平方メートルに対応する登録免許税額は、次式のとおり六万八二二一円となる。

(算式)

<省略>

(七)  以上のとおりで、土地(四)の(1)及び(5)の取得費は、結局、右(一)、(二)、(五)及び(六)の合計額二一九五万四五七六円となる。

3  (譲渡費用について)

(一)  原告が土地(四)の(1)及び(5)を他に譲渡するに際し、司法書士平野伊助に登記費用として三万八四〇〇円を、また、マルタマ産業株式会社に仲介手数料として二五四万八八〇〇円をそれぞれ支払ったことは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、内外工機との間の契約に基づき昭和五一年分の譲渡費用として八四五八万九一九七円を支払ったと主張するが、原告と内外工機との間の昭和四八年四月一日付の不動産管理委託契約に基づく昭和四九年分の支払が譲渡費用に該当すると認められないことは、前記二3のとおりであって、昭和五一年分についても同様に、その譲渡した不動産について内外工機が具外的にはいかなる態様の仲介等の譲渡に関する行為をしたのかが明らかでない以上、原告の右主張は理由がないといわざるを得ない。

(三)  なお、原告は、土地(四)の(1)及び(5)の譲渡の際、不動産売買契約書添付の収入印紙代として二万円を要したと主要するが、本件全証拠によるも、これを認めることができない。

(四)  以上の事実によれば、右不動産の譲渡費用は、二五八万七二〇〇円となる。

4  (昭和五一年分更正判決 の適法性について)

以上によれば、昭和五一年分の分離短期譲渡所得金額は、右1の譲渡収入金額一億二七四四万円から右2の取得費合計二一九五万四五七六円及び右3の譲渡費用合計二五八万七二〇〇円を控除した一億二八九万八二二四円となるところ、昭和五一年分更正における分離短期譲渡所得金額(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの。)が八七八八万二九三八円であることは、当事者間に争いがないので、被告の右更正に原告の所得を過大に認定した違法はないというべきであり、したがって、右更正を前提としてされた昭和五一年分決定(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの。)にも何ら違法はないといわなければならない。

四  よって、原告の請求はいずれも認めることができないので、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 中込秀樹 裁判官 金子順一)

物件目録(一)

(1) 千葉県市原市大久保字大地蔵八八〇番の一

原野 三九三七平方メートル

物件目録(二)

(1) 東京都港区新橋二丁目一二番の一

宅地 二八一六・四三平方メートル

(持分一億分の三六万四三二)

(2) 同所 二番地一

(一棟の建物の表示)

鉄筋鉄骨コンクリート造陸屋根地下五階附九階建

一階 二二四九・二八平方メートル

二階 二六七八・〇五平方メートル

三階 二六七八・〇五平方メートル

四階 二六七八・〇五

五階 二二五二・四八平方メートル

六階 二二五二・四八平方メートル

七階 二二五二・四八平方メートル

八階 二二五二・四八平方メートル

九階 一九一七・二九平方メートル

地下一階 二七七五・四二平方メートル

地下二階 二五七四・六二平方メートル

地下三階 二五六二・五四平方メートル

地下四階 二七三・五八平方メートル

地下五階 二五五〇・四五平方メートル

(右のうち原告の専有部分の建物の表示)

家屋番号 新橋二丁目二番一の三六

建物の番号 二〇九

鉄筋鉄骨コンクリート造一階建

二階部分 三四・四四平方メートル

物件目録(三)

(1) 東京都目黒区碑文谷五丁目二二一番の一五

宅地 三四二・〇六平方メートル

(2) 同所 二二一番地

家屋番号 二二一番一の一

二二一番一の二

木造瓦葺二階建

一階 一五〇・四〇平方メートル

二階 四二・七四平方メートル

物件目録(四)

(1) 埼玉県川越市脇田本町一四番一一

宅地 一三五・四四平方メートル

(2) 同所 一四番一二

宅地 一一八・三七平方メートル

(3) 同所 一四番一三

宅地 一一二・九〇平方メートル

(4) 同所 一四番一四

宅地 四・九六平方メートル

(5) 同所 一四番三三

宅地 七五・一八平方メートル

(6) 同所 一五番一

宅地 三二・六八平方メートル

(7) 同所 一五番二

宅地 一〇・九〇平方メートル

(8) 同所 一五番九

宅地 三三・〇五平方メートル

物件目録(五)

(1) 埼玉県川越市脇田本町一〇番の一五

宅地 二〇九・二七平方メートル

(2) 同所 一〇番一七

宅地 六六・一二平方メートル

(3) 同所 一〇番一八

宅地 一六五・三二平方メートル

(4) 同所 一〇番一九

宅地 一三三・九八平方メートル

(5) 同所 一〇番二〇

宅地 四九・九一平方メートル

(6) 同所 一〇番二一

宅地 四二・八〇平方メートル

物件目録(六)

(1) 茨城県北相馬郡藤代町大字萱場字永腐二一九番

田 一七〇五・七八平方メートル

(2) 同所 二〇六番

田 九〇九・〇九平方メートル

(3) 同所 二〇七番

田 二〇二三・一四平方メートル

(4) 同所 二〇八番

田 一一九三・三八平方メートル

(5) 同町大字上萱場字草米場一三七五番

田 四一九・八三平方メートル

物件目録(七)

(1) 東京都新宿区柏木五丁目三六番九

宅地 一二六・〇八平方メートル

(2) 同所 三六番地九

家屋番号 三六番九の一

木造瓦葺二階建共同住宅

一階 五七平方メートル

二階 五二平方メートル

別表一

<省略>

別表二

<省略>

被告の主張する原告の分離短期譲渡所得計算明細表

<省略>

別表四

事件名

(1) 東京地方裁判所昭和46年(ワ)第4195号

土地所有権移転登記抹消登記等請求事件

原告 野中重男

被告 宮下雄幸

武蔵野信用金庫

(2) 東京高等裁判所昭和47年(ネ)第2944号

控訴人 野中重男

宮下雄幸

武蔵野信用金庫

(1)の事件の控訴事件

(3) 東京地方検察庁昭和46年検第38552号

不動産侵奪被疑告訴事件

告訴人 宮下雄幸

被告訴人 野中重男

別表五

換地明細表

<省略>

別表六

支払利息

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自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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